研究室の概要

熱帯・亜熱帯の大気と雲について、地の利を生かした研究・教育を目指します


那覇に向かう航空機からの眺め。手前は伊平屋島。奥にある沖縄本島は雲に覆われる。

気象学研究室は、琉球大学理学部の物質地球科学科(地学系)に所属します。 琉球大学は亜熱帯の気候に属する日本で唯一の総合大学であり、 本研究室では「地の利」を生かして、熱帯・亜熱帯の大気と雲についての気象観測や数値シミュレーションを行っています。

熱帯には今なお謎に包まれた現象が数多く残っています。 例えば、台風のような暴風を伴う渦がどうしてできるのでしょう?  台風がたてつづけに2・3個できることがあれば、全く起きないこともあります。一体この違いはどこから来るのでしょう?  天気図で低気圧が解析されているわけではないのに、大雨が降ることがあるのはなぜでしょう?  雨が多く降る夏があれば、たいして降らない夏もある。この違いはどこからくるのでしょう?  このような疑問に対し、明確に答えを述べている教科書は恐らくこの世に無いと思います。  なぜなら、世界中の気象学者がこれらの疑問に答えようと必至になって研究を続けているのに、まだ誰もが納得するような答えを得るのに至っていないからです。

 このような熱帯の大気現象の理解が遅れている理由の一つは、熱帯海洋上の観測点が乏しくデータが少なかったことです。しかし近年、高性能の気象観測衛星が運用され、  海洋上で様々な観測が行われるようになり、さらにコンピューターの性能向上によって高精度の数値シミュレーションが可能となりました。

 本研究室は、単独で大規模な野外実験や超高精度の数値計算を行う研究基盤はありませんが、 他の大学や研究機関と連携することで、観測や数値シミュレーションを行い、熱帯気象の謎に迫ろうとしています。  熱帯・亜熱帯域の気象に興味がある、気象データに触れてみたい、気象の研究をしてみたいという方、気象の分野で仕事をしてみたいという目標をお持ちの方、ぜひ一緒に研究をしてみませんか?

本研究室の略称は"Met_RQ"(めっと・りゅーきゅー)です。 Meteorological Laboratory, University of the Ryukyus を略したものです。 研究室は千原キャンパス理系複合棟の7階にあります。


琉球大学千原キャンパス。左端の建物が理系複合棟。

研究テーマ

主な研究対象は、梅雨前線や秋雨前線より赤道側で発生する積乱雲・台風です。

気象レーダーを用いた雲構造の解析

気象レーダーは、雲の中の降水粒子(雨粒や雪結晶)がマイクロ波を吸収・散乱する特性を用いて降水雲の内部構造をスキャンすることができる、いわば「雲をつかむ」装置です。 沖縄では近年、情報通信研究機構の二重偏波ドップラーレーダーの運用や、気象庁レーダーのドップラー化により、高精度のデータが蓄積されつつあります。 これらのデータを利用し、上述した集中豪雨の解析や台風の強度推定などを、他研究機関と共同で進めております。

南西諸島の地形性降雨の出現特性

南西諸島の標高は5-600mと高くありませんが、暖候期になると日中に島の上で雲がよく発達します。 沖縄本島では、海岸と山間部では年間降水量で500m程度の差があり、この違いに地形性の雲が関係しています。 水資源に乏しい島嶼において、このような地形性降雨は天然の「揚水ポンプ」として機能しているようです。 このような地形性降水の発生頻度や出現特性を、気象レーダーや各種気象データを用いて調べています。

集中豪雨をもたらす降水システムの発生機構

暖候期には局地的な大雨がしばしば発生しますが、それがいつどこで発生するかを予測することは困難です。 熱帯の海上では、大気成層はいつも不安定(正確には潜在不安定)で、海上にある湿った空気を上空に持ち上げれば 積乱雲が発達できる状況にありますが、どのような擾乱が空気を持ち上げるのかがまだ判っておらず、 これが豪雨の予測を困難にしています。 南西諸島で近年発生した大雨の事例について、取得できる全ての観測データとシミュレーションデータを組み合わせて解析することで、 豪雨をもたらす雲の発生のしくみを探ります。

全球雲解像モデルを用いた研究

コンピューター技術の進展に伴い、近年では水平格子間隔が15km以下の超高解像度な数値気象シミュレーションを全球規模で行うことが可能となりました。 これにより積乱雲の集合体である台風の発達を、従来より正確に再現できる可能性が高まりました。 当研究室では、海洋研究開発機構(JAMSTEC)で開発されている全球雲解像モデルNICAM により計算された数値実験結果を用いて、台風の発生メカニズムや、熱帯海上における積乱雲群の発達のメカニズムを調べています。

台風の発生期における鉛直構造の調査

発達した台風の構造については過去に多くの研究が行われていますが、発生期の渦の構造については熱帯海上における観測データが乏しく、調査が困難なため理解が進んでいません。 当研究室では、西部熱帯太平洋にあるパラオでの特別観測のデータや、上述した全球雲解像モデルのデータを利用し、台風発生期の渦の鉛直構造を調べ、台風発生のメカニズム解明を目指しています。

高頻度衛星データによる積乱雲の急発達の調査

気象衛星ひまわりの雲画像は、通常は30分間隔で観測が行われていますが、 2011年より暖候期において待機運用中のひまわり6号(MTSAT-1R)を用いた5〜10分間隔の高頻度観測が行われています。 このデータを用いると、積乱雲が発達する前に存在する、背の低い積雲の振る舞いがわかり、積乱雲の急発達のプロセスを明らかにすることができます。

気象コンソーシアムから高頻度衛星データを準リアルタイムで提供して頂き、南西諸島における雲の発達の様子を調べています。